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第2回

平島:はい。お願いします。私は福田先生と同じ地球惑星科学専攻というところにいますが、中に2つの教室がありまして、私は地質学鉱物学分野というほうに所属していまして、専門は岩石学です。高校の地学レベルの話に戻ると、岩石というのは、堆積岩と火山岩と変成岩があるということが必ず教科書に出てまいります。で、もっぱら日本の岩石屋さんっていうのは、火山岩を研究するか、変成岩を研究するかなんです。火山岩っていうのは、目に見えるんです。マグマが地表まで上昇し、火山から噴火して固まっていくと、色んな岩石になります。それはまあ非常に説明しやすいのですが、私のやっている変成岩というのは、地表にあった岩石が地下深いところに持って行かれて、地下のいろんな温度、あるいはいろんな圧力の元で、元々あった鉱物が結晶構造を固体状態で変換していく。そういう化学反応でできた岩石だと言われています。その辺の説明をするのが非常に難しいのです。でも一番簡単な例はですね、一回生の授業でよくやるのですが、鉛筆とダイヤモンド、すなわち石墨とダイヤモンドです。同じCですよね、元素は。同じCですけども、1000℃くらいだったら、45キロバールとか、50キロバールという高い圧力をかけるまでは石墨です。石墨の結晶構造は六方晶系と言います。それが、50キロバールより高い圧力になると、炭素が、等軸晶系という、全く別の結晶構造を持ち、ダイヤモンドになる。そういうことが地下で普通に起こっているということが今は広く知られています。私がもっぱら研究しているのは、もうほとんどの日本人の皆さんがご存知のプレートの沈み込みに関することです。3・11のあの大きな悲惨な地震を引き起こしたプレートの沈み込み帯に沿ってどんな岩石が分布しているのかということを、学生時代からずっと研究しています。今、我々地球科学のほうでは、プレートの動きの駆動力はよくわかっていないのですが、とにかく海の底が沈み込んでいるということはわかっています。地表にあったものがどんどん深く潜りこんでいくと、石自身の比重はどんどん重くなります。海洋地殻を構成している岩石は、地下50キロか60キロより深く入ると、変成作用によって、マントルより重い物質になるのです。マントルより重くなるから、そんなものはどんどんどんどんマントルの中に入っていくはずなのですが、今我々の世界では、地下200キロくらいまで沈み込んだ海洋地殻、あるいは大陸地殻が地表にあるということまでわかってきました。私の最大の興味は、そういう岩石がどこにあるのだということ、そしてどんなメカニズムで上がってくるのだろうということで、それをだいたい30年間くらいかけて研究して来ました。ただ我々の分野はですね、厳密な理論がなかなか全てに適応できませ。私が扱っている理論的なものは化学熱力学、つまり無機化学の世界なんです。こういう鉱物とこういう鉱物の組み合わせがもっともエネルギーが低くなるから、その組み合わせを構成する温度と圧力はこれこれだ、という学問体系があって、それを我々は、岩石の中の鉱物を調べて決めていくのです。そういう手法が確立していますので、うちの三回生以降の学生さんにはそういう基礎を教えていきます。そういうことをやって、私自身は、中国、イタリア、今はチェコ、キルギスと、だいたいは地下100キロ以上潜り込んでいって地表に回帰してきた岩石を系統的に研究しています。その過程で非常に面白いことが見えてきます。大陸と大陸がぶつかったようなアルプス、ヒマラヤあたりでは、ひとつの岩石ができてから、地下100キロまで入って、また地表に上がってくるあいだに2億年くらいの時間経過があるのですが、その歴史を、岩石を構成している小さな鉱物から読み解いていく学問をやっています。それだけで、たくさんの学生に学位を取らせました。けれども、それだけでは昔の方法で止まってしまいますので、この10年間、新たに始めたことがひとつあります。固体を使って、地下深部での水の動き、流体の動きを調べようという研究です。どういうことかというと、岩石の中の鉱物には、水がOH基の形で結晶構造に組み込まれています。鉱物の種類によって、OH基の量は、10数パーセントから1パーセントぐらいまで変動しています。そういう含水鉱物が地下深くで準安定になって分解すると、結晶中に固定されていたOH基が水として地下深部で放出される。実はその様な水がマグマの発生とか、このあいだの3・11の地震の引き金だというふうにみなされています。水というキーワードは、実は福田先生とも繋がるし、地球物理の他の先生方ともずっと繋がっていけるのです。そういうことで、あと定年になるまでそれを楽しませていただこうかと考えております。

 

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平島崇男 教授

三輪:どうもありがとうございました。さて、これからですが、昔を思い出しながらでもいいですし、あるいは最近のこと、授業などで出会う新入生を見てということでもいいですし、どんな形でもいいので、新入生に一番言いたいことを言っていただこうかと思います

 


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